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我が人生・履歴の森[514] |
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我が人生・履歴の森[514] |
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●早期定年後は ２００２年１２月２７日で永年勤めた会社を去って、２００３年１月１６日から新しい人生の山旅に出かけた。これからは健康で時間と生活にゆとりがある限り人生を感じる野山に浸って日々を過ごしていこうと思う。
・・・川村則行著「本当に強い人、強そうで弱い人」より ◆１、弱さを受け入れる強さを持とう 世の中は相変わらずの不況で、リストラに泣く社員が跡を絶たない。リストラされた会社員が、家族にその事実を伝えられず、毎日出勤を装って 『ハローワーク』 に行き、夜まで街で時間をつぶして何事もなかったかのように帰宅する。そんな新聞記事を読むと、人ごとながら、こちらまでせつない気持ちになってくる。これまで順調にやってきた人ほど突然の逆境にたじろぐものだ。有名私大の理科系学部を卒業して、あるメーカーに就職した三十九歳の男性も、そうだった。 彼は、仕事一筋にがんばってきた、いわゆるモーレツ社員だった。朝は早くから会社に行き、毎日残業をして家に帰るのは午前様。そんな仕事ぶりが報われ、いち早く課長に昇進し、社内でも出世頭と目されていたが、時代のうねりが彼の順風満帆だった航海の前に立ちはだかった。会社が生き残りをかけ、大規模な技術革新を断行することになったのだ。当然、従来のやり方では太刀打ちできないので、社員も新しい知識を身につけ、新技術に適応していかなければならない。しかし、これが思った以上に大変だった。 必死に勉強しても、新しい技術についていける人と、つていけない人がどうしても出てくる。明暗がはっきり分かれた。そして、男性はこのターニングポイントでつまずいた一人だった。会社は、リストラはしないと断言した。首は切らない、しかしこの苦しみを社員全員で共に耐えてくれ、というわけだ。男性は、リストラの心配こそなかったが、「仕事ができない自分」に直面するという、これまでに経験したことのない屈辱感を味わった。彼ができる選択は、今のポストを捨てて他の部署の閑職に移ろか、さもなくば会社を辞める、その二つに一つしか残されていなかった。 エリート社員として、常に先頭に立って働いてきた彼にとって、この現実を認める のはたやすいことではなかった。彼は現実にあらがうかのように、以前にもまして仕事に励んだ。「自分はできる」と信じたい一心だったのだ。やがて彼は心の健康を害し、うつ状態に陥った。夜よく眠れない、食欲もわかない。ともすれば、なにもかもダメだという気持ちになってくる。心も体もポロポロに疲れた。が、それでも残業を続け、仕事にへばりつこうとした。課長として彼にできる仕事はもう多くはないにもかかわらず、相変わらず会社に居残り続けたのだ。 「なぜ、そんなに残業を続けるのですか」私は上司の勧めで診察室にやってきた彼に聞いてみた。「残業をしないと、乗り遅れてしまうような気がするんです。みんな必死なんです。私もこれまで以上にがんばらないと……」しかし、残業の内容を聞いてみると、さほどたいしたことはしていない。わざわざ九時、十時まで居残ってするような仕事でないことは、彼自身がいちばんよく知っていたのだ。「もう、すでに乗り遅れているのではありませんか」私の率直な問いかけに、彼は少しばつが悪そうだったが、静かにうなずいた。 私は彼と話す中で、この一週間、彼が朝起きてから夜寝るまで何をしたか、思い起こしてもらった。会社で働いている時間以外にも、家庭で、夫として妻とどんな話をしたか、父親として子供とどう接したか、休日はどんなことをして過ごしたか、そういったことを逐一話してもらった。彼の生活は、会社だけで回っているのではないことを今一度、思い出してほしいと思ったからだ。「会社で課長として働いてきた場面での幸福感は、残念ながら、いま挫折しっつあるかもしれません。 けれど、あなたには大切な家族もいるし、戻っていける家庭もある。会社以外にも、幸福感を感じられる場面はあるのではないですか。それに、会社はリストラをしないと言っています。あなたを守ろうとしています。今のご時世、簡単に社員の首を切ってしまう企業が多い中で、そういう会社の姿勢は、評価してもいいのではありませんか。たとえ、今までのように働けなくても、会社で幸せに生きる道も、残されているのではないでしょうか」私はそう語りかけながら、彼に少し休む時間を持つように勧めた。 せめて一日に三〇分でいいから、穏やかにものを考えて、幸福感を感じられるような時間を作ろうと提案した。そのうち彼は、毎日の残業が「ただ、みんなが働いているから私も居残っているにすぎない」と、意味のない仕事であったことを認め、定刻になるとさっさと家に帰るようになった。彼は少しずつではあるが、現実を受け入れているように見えた。 ・・・川村則行著「本当に強い人、強そうで弱い人」より ◆２、弱さを受け入れる強さを持とう しかし、そんな彼の姿に当惑したのは妻だった。妻にしてみれば、これまでバリバリ仕事をこなしてきた夫が、急に出世街道から外れていくことが、どうにも納得できなかったのだ。社宅住まいで、妻同士のつき合いも会社とは無縁ではいられなかったことも大きかったのだろう。「あそこの旦那さんは出世したのに、どうしてあなただけが不当な扱いを受けなければいけないの。これまで寝る間も惜しんで、あんなにがんばって働いてきたじゃない。 会社のために尽くしてきたじゃないの」そう言って詰め寄る妻に、彼は初めのうちは「大丈夫だ。心配するな」などと強がりを言っていたが、とうとうある日、本音を漏らした。「オレはダメなんだよ。ついていけないんだよ。わかってくれ……」 夫が、仕事のことで妻に弱音を吐いたのは、実はこのときが初めてだった。これま でエリート社員としての顔しか知らなかった妻にとって、この言葉は、夫の置かれた状況を理解するに十分の説得力を持っていたようだ。 彼は会社に対しても、妻に対しても、そして自分自身に対しても、弱きを素直に認めたのだ。このときのことを、彼は、後になって私にこんなふうに話してくれた。「家庭では、いつでも頼りになる夫であり父親でいたかったんです。だから、本当は弱みなんか見せたくはなかった。でも、もう限界でした。初めて妻に弱音を吐いたとき、不覚にも涙がこぼれてしまいましてね。そんな私の姿を見て、妻はとても驚いているようでした。 でも、妻も私の立場をわかってくれたようで、一緒に泣いてくれたんです。いちばん身近な妻に、弱い自分をさらけだせたことで、ずいぶん心が軽くなったような気がします。ああ、もう無理にがんばらなくてもいいんだな、と。肩の力がフツと抜けたような気持ちでした。会社以外にも、幸福感を感じられる場所があるはずだと言った先生の言葉が、わかったような気がしました」それからの彼は、見るからにサバサバとした表情になっていった。 そして配置転換を受け入れ、新しい仕事も始めた。「やっていけるような気がします」と、私にはっきり言ったときの表情は、重荷を下ろしたような清々しさすら感じられた。このころには、うつ状態からも、完全に脱していた。彼は、会社での地位や、出世という大切なものをなくしたかもしれない。誇りも大いに傷つけられたことだろう。 しかし、そのことで手に入れたものも、確かにあったのではないだろうか。つまり、自分の弱きを素直に認めたことである。それができたことで、彼は家族との絆を再確認でき、これまでとは違った価値観もあることに改めて気づくことができた。このことは、彼のこれからの人生にとってプラスにこそなれ、決してマイナスにはならないと私は思う。 彼は一人の人間として、以前の彼より、確実に強くなっているからだ。人はどんなに弱くても、経験に基づく強さを身につけることができると書いた。しかし、そこには欠かせないルールというものがある。それは、自分が弱い人間であるということを素直に認めることだ。弱きを受け入れる強さを持つことだ。この第一公式を抜きにして、人は絶対に強くはなれない。
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