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白峰の富士山 |
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白峰の富士山 |
2003-03-08-1 2003-3/12 10：15撮影 鬼ヶ岳からの富士山
2018-08-27・・・日経より引用 ◆頂上に立った感動・山のリアル 「山、山、その平面世界より超絶するところ多々」（志賀重昂著「日本風景論」より）。肉体を奮わせ、平地よりはるか隔絶された頂に立ったものだけに許される景色がある。人はなぜ山に登るのか。最もシンプルで美しい答えは絵の中にある。 山の美しさは登って撮られた写真の中にもある・・・服神院
*荒々しい姿伝え・大きな反響呼ぶ 沸き立つ雲はまるで大地のようだ。雲の下方から空を鮮やかに染める暁が、ここが尋常ならざる地点であることを伝えている。「五合之上六合之下僻臨暁色図」に措かれるのは富士山の5合日と6合目の間。画面右寄りの中腹には、この90年ほど前に噴火によって誕生した「菅永山」が顔を見せる。 それを境にゆるやかに続いていた登りは急角度を措き、険しさを増して途切れる。山頂はまだはるか先だ。待ち受ける道のりの厳しさがしのばれる。作者は江戸後期、下野（現在の栃木県）の画家、小泉斐（1770～1854年）。絵が収められている「富岳写真」は寛政7年（1795年）の富士登頂の体験をつづった木版多色刷りの画帳で登山から約50年後、弟子たちによって刊行された。この年、関西に赴き京都で遊ぶなどした斐は、帰路富士の周辺の勝景を探った。 そこで出会った水戸藩士の一行とそのまま富士に挑んだ。簡単なものではなかっただろう。「富岳写真」には、9合目付近、足場の悪いゴツゴツとした岩場を必死で登る場面や、下りに遭遇した嵐の様子が描かれている。格好はわらじにすげ笠だろうか。現代の山登りの装備からみればいかにも心細く見える。江戸時代には信仰のための富士講が流行した。18世紀後半には登山道が整備され、宿泊所も建てられていたという。 やはり、斐の目的も富士講だったのだろうか。どうやらそうではない。「偏執的とも言える山頂へのこだわりが見える」と指摘するのは府中市美術館の金子信久学芸員だ。20余りの絵からなる富岳写真のうち、山頂を描いた「絶頂全図」は下に掲載したものを含め、「其三」まである。火口を含めた克明な描写であり、角度を変えながら見える岩肌の変化を客観的に記録している。さらに別の図では、遠方から望む富士の頂がいくつに見えるのかも幾度も細かく記している。 弟子の島崎玉淵が巻末に置いた「龍華寺勝景」を見ると登山の意図はより明確になる。中村栗園が絵に添えた漢文には「画手またいまだ旧習を脱せずいたずらに三峯を描く」とある。鎌倉時代ごろから富士山頂は三峰に措かれ始め、定型とされてきた。斐の目的は自らの目で事実を確かめ、ありのままを記録することにあったのだろう。中国文人の「真景図」の影響や西洋の写実的な風景表現がもたらされ、実証主義精神が高まりをみせた時代だ。 江戸中期ごろまで日本では実際の風景を絵にするという試みはほとんど行われてこなかった。中国風の山水画では、自身が行ったこともない理想化された風景が措かれるのが一般的だった。「実際の地形や空間に目を向け把握しようとすること自体がこの時代の先進的な精神だった」（金子学芸員）ことを考えれば、小泉斐が伝えた富士の姿はまさしく大スクープだった。実際、反響は大きかったようだ。登山時の写生図は出版前から、多くの画家に模写され、関西に貸し出されるなど高い関心を集めている。登山も一般的ではなく、写真もなかった時代。富士山頂の荒々しい姿が驚きをもって迎えられたことは想像に難くない。 ただ、「富岳写真」の魅力は記録性だけではない。絵の中に斐の感動が豊かに表現されている。「五合之上六合之下僻臨暁色図」は、折り本4湾にわたり、開くと横長の全景が現れる。まるでしかけ絵本だ。体験した驚きをできるだけ読者に伝えたいと知恵を絞ったのだろう。雲海と暁に目を奪われ、立ちつく す斐の姿が目に浮かんでくる。
*写実的な技法で・岩場には立体感 斐より先んじること35年。京都にも、山をその日と脚で確かめようとした男がいた。〝旅する画家?池大雅（1723～76年）は、仲間2人とともに、白山、立山、富士山の三霊山踏破に挑んだ。実に3カ月に及ぶ大旅行である。旅の様子が「三岳紀行図屏風」に残っている。大雅によるスケッチのほか、友人が書いた出納記録もあり行程がよく分かる。ざっと迫ってみよう。今の暦で8月初旬、京都を出立した一行は大津へ入り、琵琶湖を北上。 福井をへて、一週間ほどで白山に取りかかる。下山した5日後には、すぐに立山に挑んでいる。さらに新潟方面から信州、江戸、富士山と休む間もない。実に1日20㌔以上歩き続け、山にも登っているのだから驚くべき健脚だ。疲れを癒やすためか白山ではアメを買い、金沢ではスイカで喉を潤している。．大雅の真景図の中でも傑出した出来栄えを示す「浅間山真景図」はこの旅のスケッチが基になっている。山裾の手前中央に隆起する岩場の左横に広がるのは軽井沢だろうか。 そこから左上方に目を移すと、うねり伸びていく利根川が流れ、その先に筑波山も見える。絵の中央から右側にかけては尾根が連なる。導かれるように視線を右上に送っていくと、かすかに頑を出す富士、の姿に気づくだろう。スケッチには「フジ」の書き込みやその様子を何度も描いた跡がある。遠望した感動が大きな作画動機になったと考えられる。しかし、大雅は見たままの景色を写し取ったわけではない。 「浅間山真景図」の中で右手前に大きく措かれているのが大雅が登ったはずの浅間山だ。つまり、絵は複数の図を組み合わせて再構成されているということになる。大雅は生涯旅に出かけ各地を描いたが、目的は風景の再現ではなかった。旅を重ねたのは万巻の書を読み万里の道を行かねは偉大な画家にはなれないという中国文人画家の影響を受けたものだ。「巳行千里道、未読万巻書」と刻まれた印字を使ったことからもそれが分かる。 京都国立博物館の福士雄也研究員は「日本の実景を、憧れた中国文化の枠組みにどう落とし込むかに関心を注いだ」と話す。ただ、「浅間山真景図」を見ていると、それだけではない気がしてくる。筆致は細やかで、濃淡を交えた岩場には立、体感がある。雲には重みが漂い、よく見れば空はうっすらとした青で塗られている。福士研究点に尋ねると「26歳のとき江戸で西洋の銅版画を見て衝撃を受けたという記録が残っている。 空間の広がりや自然な遠近法にその影響がみえる」と教えてくれた。越えてきた山々と遠望した富士は格別だったろう。絵の中の富士は、目を凝らさなくては見えない。それはまさしく大雅の体感ではなかったか。自身の感動をより的確に表すため、写実的な西洋の技法をこの絵に使ったのかもしれない。写真や西洋的な写実画を見慣れた現代では、斐や大雅の絵は必ずしも「リアル」とは言えないのかもしれない。ただ、彼らが肌で感じた自然の実感は確かに息づいている。そして見るものに深い感動を与える。描き出す手法は今と違っても、やはりこれもリアルな山の姿なのだ。赤塚佳彦
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